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1.育児あれこれ

育児に際して気になるあれこれを医師の立場からご紹介しています。

43.病児保育施設の利用について

子どもたちは、生まれて来たときには、臍帯を通して、お母さんが持っている免疫グロブリンをもらい受けているので、ある程度まわりの細菌やウイルスなどの病原体から身を守ることが出来ます。しかし、このもらった免疫は長続きせず、徐々に減っていき、生後6か月くらいでほぼなくなります。ほぼなくなった免疫はお母さんの年令になればお母さんと同じくらいに追いつきます。つまり、6か月くらいからスタートして、たくさんの病原体に出会って免疫を身につけて「強く」なっていくのです。

人間社会には、200~300種類くらいの病原体がいると思います。これらのすべてに出会うわけではありませんが、徐々に出会ううちに、「病原体」によって引き起こされる「病気」に滅多なことでは罹らなくなります。しかし、子どもたちは「社会」と接し始めた当初は、出会う「病原体」はほとんどが初対面です。当然免疫はありませんから程度の差はありますが「病気」になってしまいます。保育園、幼稚園、学校など集団生活の場は皆で「病原体」を持ち寄って交換しているような状況になっていますから、初対面の「病原体」も多く集まってきます。ですから、集団生活を始めたばかりの頃は次々と「病気」になります。肝心なことは、「病気」にならないように努めることも大切ですが、「病気」がひどくならないように看病することです。当然病院に行って診断し、治療することも大切です。

集団生活に入ってから3か月で10回、1年~1年半で30回くらいは「病原体」による「病気」になっているように思います。しかし、この時期を乗り切ると滅多にひどくはならず、病院に行くことも激減します。
病児保育施設は、図に示したように、緑の状態の子どもたちを対象に受け入れています。つまり、

  1. 健康なお子さんは当然、保育園や幼稚園に。
  2. 少し調子が悪そうでも良く食べ、機嫌も良く、よく眠り、よく笑い、元気なお子さんは保育園や幼稚園に。 病気の回復期でも同じように考えて対応可能です。子どもたちの急性の「病気」の大半は「病中」→→「回復期」→→「回復」という区別は付け難く、「病中」→→→→「回復」となっています。
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  3. 食欲がなく、機嫌も悪く、よく泣いて、元気がない、お子さんは看病が必要です。いつもの食事を「さあどうぞ」と差し出しても食べてはくれません、いつもは大喜びの「お菓子」でもそっぽを向いたりします、こうなったときが「看病」する人の腕の見せ所です。看病が良ければたいていの病気は数日以内には治っていきます。
  4. 中になかなか直らず、あるいは重い「病気」で外来で点滴が必要となったり、詳しい検査が必要であったり、入院が必要になったりします。

ここで述べた③の子どもたちが病児保育施設が利用できます。
「病気」の種類は特に制限はありませんが、④の段階になっているお子さんは利用が困難です。また、利用前の診断で③となっていても、急変して④になり、救急車で病院に運ぶこともありますので、利用される方も事前に了解をお願いします。

病児保育施設は看護師が中心になり注意深い観察、看病を行います。経過中に変化が見られたときは、すぐに医師が診察し、診断し対応します。この様なときの連絡先は常にはっきりしておいてください。…

42.空間の広さと子どもたち

子どもたちがノビノビとしているかどうかは彼らの動き方、遊び方に表れる。
窮屈に感じる空間では、遊びは小さく、あまり動きを伴わないものになりがちである。
これは当然といえば当然で、走り回るには走るだけの広さ、長さが必要である。数歩で壁に行き着く空間で走る必要もないし、走ってもぶつかるくらいのものである。狭いところで走ってみても面白くも楽しくもないのだろう。子どもたちは狭い空間に置かれれば安心して落ち着いているように見える。しかしいつも狭いところを好むわけではない。子どもたちにとっては両方の空間が必要なのである。

ノビノビを英語では、free and easy とも表すようだ。
Free とは制約がない事だろう。制約には、空間的なものも精神的なものも含まれると考えられる。つまり、子どもたちにとって、坐ることも歩くことも走ることも寝ころぶことも自分の判断で出来る空間がノビノビできる場となる。日常生活の中でも、保育園や幼稚園など集団生活の場でも、空間の広さが保証されることは子どもたちにとって大切なことである。いまどきの子どもたち云々をいう前に、いまどきの大人たちは、子どもたちにどのような空間の広さ与えているかを考えるべきだろう。公園にしても、道路にしても、あちこちの広場にしても、室内空間にしても、子どもたちにいろいろな制約を加え過ぎているように思う。この制約が少なくなれば子どもたちは「昔」の子どもたちになるだろう。子どもたちが変わったのではなく、周囲が変わってきているのだから。

Easy とは子どもたちが安全で安心してゆったりと出来ることだろう。
広い空間のみでは子どもたちが落ち着いて、じっくりと、いろいろなことに取り組むことは出来ない。子どもたちは、広い空間と同時に狭い空間も好むのである。遊びには、広い空間で行うものもあれば、狭い空間に似合うものもある。狭い空間で子どもたちがくっつき合いながら遊ぶのも必要なのだ。

広い空間、狭い空間、ほどほどの空間、いろいろな空間が子どもたちにとっては必要であり、時と場合により子どもたちが自ら選ぶことが出来る、これが大切なのだと思う。(K.Tanimoto)…

41.シリーズ:保育園での健診から⑤思い通りにならないと・・・

・思い通りにならない事があると、その相手を咬む。 (2歳6か月 男児)

・下に妹ができてから、少し反抗的(?)というか、言ったことの逆のことをわざとしたり、ふざけて言うことを聞かなかったり・・・・自分に注目してほしいのか、愛情をもっと自分に注いでほしい気持ちの表れだとは思うのですが・・・
前ほど素直にいろいろしなくなってきました。
すぐ泣くようになりましたし。
(3歳5か月 男児 )

・思い通りにならないことがあると、手当たりしだいに物を投げます。
思った様に飛ばない時は、わざわざ取りに行って、さらに投げつけ泣いています。
2歳0か月 女児

・思い通りにいかないと、たたく、かぐる、ひっかく…あらゆる方法で表現するので、友達を傷つけてないか心配です。 2歳2か月 男児

子どもたちは、自分のことを大人が考えるほど「子ども」だとは思っていないのでないでしょうか? 周囲の大人から見れば、子どもは子どもに違いありませんが、子どもたちは大人とほぼ対等に考えているように思えます。もちろんいつも抱っこをせがんできたり、すぐに泣き出したりと、決して大人では無いのですが・・・。
子どもたちが自分が主張できるようになってきた証拠で、大きくなってきた証拠だと考えて、その意志を出来る限り尊重するしかないのでは?
思い通りにならないことを無くす以外にほぼ方法は無いと思います。つまり、子どもたちの思い通りにしておくしかないでしょう。怒っても、叱っても、誉めても、子どもたちは同じように行動するでしょう。可能性があるのは、周りの大人が良い手本を示していくことと、「思い通りならない」ことに大人が反応しなければ面白くないので止めてしまうでしょう。手当たりしだいに物を投げても誰も相手にしてくれなければ面白くなくなります。ここで反応すると、その反応が次の行動を引き起こすのだと思います。
ここで反応しないというのは、「気にしている雰囲気も無いようする」ことですのでかなり難しい対応です。投げられても壊れない物、暴れても怪我をしないように片付けておくことなどが必要です。
噛み付いたり、叩いたりして友達を傷つけないか心配でしょうが、対策はなかなか難しいと思います。噛み付いたり叩いたりする前にどういう対策をとるかですが、間に合わない場合も起こります。大きな怪我にならないように周囲の大人が気を配る以外には対策は無いと思います。…

40.シリーズ:保育園での健診から④トイレでの排便を嫌がる

おしっこはトイレで出来るのですが、大きい方は「絶対嫌だ」と言ってトイレでしようとしないので困っています。 (3歳2か月 男児)

時期を待つことが大切です。いつか自立できると考えて、焦らないようにしてください。
トイレを嫌がる子どもたちは少なくありません。トイレがお子さんにとって楽しいところになるように、シールを貼ったり、お子さん専用のスリッパ、タオルやトイレットペーパーを用意したりなど色々工夫して見てはいかがでしょう。
また、排便があるまでトイレにいるようすると結局は無理を強いることになり、嫌がってしまいます。本人が楽しんでいる間だけトイレに入っているようにしていることが肝要です。…

39.シリーズ:保育園での健診から③母乳はいつまで?

母乳がやめる事が出来ません。(1歳5か月 女児)

母乳は無理に止める必要は無いと思います。大きくなってくると母乳は飲みにくくなってきますから徐々に止めてくれると思います。それまで待っていても良いと思います。また、いろんな事情から止めたいということであれば、ミルクやお茶など代わりのものを用意して、2、3週間頑張れば止めることも可能だと思います。ただこの間は夜眠れないこともあると思いますので大変です。

 …

38. シリーズ:保育園での健診から②夜間の授乳哺乳瓶

夜中の授乳(ミルクを150ml位)をやめるべきかどうか。(1歳3か月 女児)

夜中に起きてミルクを150mlくらい飲むと言うことは、空腹感があるからと考えられます。夕食の量と時間、就寝前の哺乳量を工夫してはどうでしょうか。ミルクが欲しくて夜半に起きるのでなければ、その理由として考えられるのは、暑い、くっついて寝る習慣が出来ている、排尿・排便、周囲の騒音などがあります。原因について考え、推測できるといいですね。また、丁度いわゆる夜泣きをする時期にも当たっていますので、理由がはっきりしなければ夜泣きの可能性もあります。これは、睡眠の時間が周囲の人と違っているだけのことが多く、1歳半くらいになれば夜半に起きてくることもなくなります。睡眠パターンが異なると、周囲は大変ですがもう少し成長するまでの辛抱だと思いますので我慢して上げてください。…

37.シリーズ:保育園での健診から①哺乳瓶、指しゃぶりなど

・哺乳瓶がなかなか止められず、(コップ、ストローで上手に飲めます)時々指おしゃぶりもしている様なのですが、止めさせるにはどうしたらいいでしょうか?(2歳6か月 女児)

・指しゃぶりがやめられない。(4歳0か月 女児)

コップやストローで上手に飲めるのであれば、哺乳瓶は全く使わない、見せないようにし、哺乳瓶を要求する前にコップ・ストローを用意してみてはどうでしょうか。指しゃぶりは、周囲が気にするとなかなか止められないようです。指を引き離したり、口頭で注意したり・叱ったり、指にカラシを塗ったり、包帯したり、いろいろありますが大抵うまくいかないようです。

周囲が忘れてしまうと1年もすればなくなっているようですが、どうしても何かしたいということであれば、指を吸う前に指を使う遊びに誘ってあげることです。ジャンケン、指相撲、何か物を持たせる、など、指を吸わなくても平気で居られる状況を多くすればなくなっていきます。…

36.機嫌の悪い子

子どもたちが機嫌が悪くなる原因は様々です。 その中のひとつに暑くて耐えられない状況があります。  先日、飛行機に乗ったとき、飛び立つ前に泣き出して、 お母さんがどうあやしても泣きやまない1歳くらいの子どもがいました。

席に着いたときはカーディガンも着ていましたが、 お母さんは暑いのではないかと考えたようで、まずこれを脱がしました。 これでほんのしばらくは温和しくしていましたが、飛び立った直後から再び泣き 出しました。  私も上着を着てはいましたが、機内は結構あったかく感じていましたので、 子どもならおそらく暑かったと思います。 この子はカーディガンを脱いでも、下着の上に厚手のTシャツ(?)を着て、 さらにつなぎをはいていました。

飛行機のシートベルト着用サインが消え、機内で飲みのもが配られ、 この子は冷たいジュースを貰い飲み始めると再び落ち着いてニコニコし始めまし た。 しかし、これも長くは続かず再び泣き出しました。 お母さんは抱き方を変えたり絵本を見せたりいろいろ工夫をしていましたがいっ こうに収まりませんでした。

よけいなお世話とは思いましたが、まだ着陸までは間があったので、 「多分暑いのだと思いいます。少し薄着にしたりして涼しくしてみたらどうです か?」とアドバイスしました。 お母さんの隣の座っていたお祖父さんらしき方が本を使ってあおぎ始めてしばら くしたら落ち着いてきました。 (ちなみに、このお祖父さんらしき方は飛行機に乗った時点からブレザーを脱い で居られました。)

さらに、お母さんがつなぎの肩ひもを緩めて涼しくすると機嫌は良くなり眠っ てしまいました。 無事着陸し、飛行機から降りるときも、気持ちよさそうに眠ったまま、お母さん に抱かれて降りていきました。 子どもたちが機嫌が悪くなった時の原因のひとつに暑すぎることがあります、 いつも配慮しておきたいことだと改めて思いました。…

34.病児保育は必要悪?

病児保育は必要悪?

反対意見としては「子供が病気の時くらい母親がちゃんと世話するべきだ」「子供は病気のとき母親の看病を望んでいる」「働く母親に休む権利を与える方策のほうを考えるべきだ」「仕事をして収入を増やすより愛情を子供に注ぐことを考えるべきだ」などです。だけど、現実には、急な子供の発熱や感染症に困り果てているお母さんたちがいます。理想的には、「看護休暇」として、子供の看病のための休暇が取れるのが一番です。それも、母親一人が休暇を取りつづけるのではなく、父親、時には祖父母も看病のための休暇が取れることが必要です。でも、現実的には、それは可能でしょうか?

親は子供が病気のときに必ず休めますか?

一口に子供が病気の時くらいと言っても、実際に子供を育てられた方ならわかると思いますが、子供が集団保育に行き始めた1年目などは頻繁に風邪や色々な病気にかかります。その度に、完全に良くなるまで親が仕事を休めるでしょうか。休む権利があることと、実際に休めることとは別です。学校の先生をしているお母さんの子供が参観日の朝に発熱したとき、美容師のお母さんの子供がおみせが忙しい日に調子が悪くなったとき、経理の仕事をしているお母さんが決算の期限が迫っているときに子供がみずぼうそうになったとき、簡単に休めるでしょうか。交代のきく仕事のお母さんだって休みが度重なれば有休がなくなるし、解雇の心配もしなければなりません。仕事を失うと経済的にすぐに困る家庭もありますし、今やめてしまうと将来復帰の難しい職業のお母さんもいます。

仕事をしていないお母さんだって

仕事をしていないお母さんだって、お姉ちゃんが楽しみにしている親子遠足の日に妹が熱を出した、引越しの日に子供が熱を出した、他の子供の入院の付き添いをしなければならない、お母さん自身もインフルエンザで寝込んでいるなど、どうしても子供の看病ができない場合があるのです。たとえ仕事をしていなくても、様々な状況があります。頼る親戚が近くにはない場合、本当に困ってしまうのです。

病気の状況にもいろいろあります

もちろん子供の状況によっては仕事や他の用事よりも看病を優先させなければならない時だってあります。たとえばベアーズデイサービスセンターでは入院が必要な時や今すぐ点滴が必要な時は預かりません。でもそのような状況以外に保育園に登園できない状況はいろいろあります。38度以上、保育園によっては37度以上の熱があると登園できません。下痢が続いているとき、多くの保育園では特別におかゆなどを作ってはもらえません。みずぼうそうやおたふくかぜのときはどんなに軽く、元気な状態でも登園できません。

お母さん、お父さんの看病

ベアーズデイサービスセンターでは1~2人の子供に1人の看護婦あるいは保育士がついて、病気を治せるように最大限の努力で看病をします。食欲がない子供には食べることができるもの、飲むことができるものをさがしていろいろ与えます。そして子供たちの様子を一時間毎に記録します。発熱や下痢などの症状のほかに何をどのくらい食べて飲んだか、尿が何回どのくらいでたか、機嫌が良かったか、何をして遊んだか。退室の際にその記録をお迎えの方に渡します。子供の状況をなるべく詳しく、お母さんたちに伝え、夜から明日の朝までの看病に役立ててもらうためです。最終的に責任を持って子供を看病するのはお母さん、お父さんなのです。…

33.未満児保育の存在意義

3歳未満の子供を保育園に預けることは悪いことですか?

3歳未満の子供を保育園に預けてお母さんが働くことは、悪いことでしょうか? 以前から、日本では3歳児神話と言って、3歳までは母親が育児に専念すべきだと言われてきました。1998年版厚生白書がこの3歳児神話の考え方には少なくとも合理的根拠は認められないと否定しました。そして、実際に保育園生活をおくる3歳未満の子供たちを見ていると、彼らにとって保育園生活は悪い影響を及ぼすものでは決してないと思われます。しかし一般的にはまだ、小さい子供を保育園に預けることは悪いことだとの考えが根強いようです。「こんな小さい子を預けて」「そこまでしてお金をかせぎたいの?」「子供がかわいそうじゃないか」などさまざまなことを言われて動揺しているお母さんに多く出会います。

注)1998年度厚生白書より

母親が育児に専念することは歴史的に見て普遍的なものでもないし、たいていの育児は父親(だんせい)によっても遂行可能である。また、母親と子供の過度の密着はむしろ弊害を生んでいる、との指摘も強い。欧米の研究でも、母子関係のみの強調は見直され、父親やその他の育児者などの役割にも目が向けられている。三歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない。

0歳、1歳、2歳児の保育園生活

保育園に預けられている乳児や幼い子供たちは母親や家族と離され、さびしい思いをしているのでしょうか?泣いてもほったらかしで、相手をなかなかしてもらえず一日を過ごしているのでしょうか?
私たちの保育園では、未満児も散歩、砂遊び、水遊び、室内でのままごと、絵本、歌と毎日友達や保育士と楽しく遊んでいます。もちろん入園したての慣れない時期は、朝、お母さんと離れられず泣いてしまう子供もいます。でも保育園に慣れて、保育園は楽しい所なのだとわかってしまうと喜んで登園できます。朝、仲良しの友達や大好きな先生やお気に入りのおもちゃをみつけて走っていき、楽しい毎日の始まりです。
一般にまだ社会的存在でないと考えられている0歳児から、子供同士のかかわり合う様子がみられます。他の子供の存在が気になりそばによっていったり、お互いの顔を見てわらいあったり、単語にならない言葉で話し掛けたり。時には愛情表現で出した手で相手の髪をひっぱってしまって泣かれたり、おもちゃの取り合いになって泣いたり、保育士の取り合いで泣いたりの場面もありますが、それも友達との係わり合いのひとつです。室内では、はいはい、よちよち歩きで遊びまわり、天気がよければ時には散歩車やベビーカーでお散歩、眠くなったらお昼寝、そして、個人個人にあった離乳食と、ミルクをおなかいっぱいもらいます。

1歳児になるともっと活動的になり、お散歩、砂遊び、絵本、歌と遊びが増え、4月当初は会話らしい会話がなかったクラスの中にだんだん会話らしい会話がとびかうようになります。食事のときはそれぞれが自分で何とか食べようとして、終わった後は子供たちも周囲もご飯粒だらけです。おまるでおしっこができ得意になっている子供もいます。
2歳児になるともっともっと色々な事ができるようになり、遊びもごっこ遊びやお絵かきなどできるようになります。友達同士けんかしたり、競争したりもしますが、みんな仲良しの仲間です。

私たちの保育園では、年に3回健康診断を行う際、家庭に子供の発達に関する問診表を記入してもらいます。その時、家庭での評価と保育園の評価がかなり食い違うことがあります。そのほとんどが保育園ではできているのに家庭ではできていないと評価されている内容です。「意味のある単語がでますか?」に対して家庭では「いいえ」に○がされているT君が保育園ではアンパンマンの人形を見て、「ぱーんまん」と言っていたり、「積み木がつめますか?」の問に「いいえ」となっているKちゃんが保育園では上手にできていたり、「ジャンプができますか?」と言う問に「いいえ」となっているAちゃんが保育園ではジャンプをしていたり。保育園では家庭よりもダイナミックにそしてたくさんの人と関わりながら遊んでいるために、家庭では見られない姿が見られるのではないでしょうか。また両親が「まだこれができない、あれができない」とネガティブに考える傾向があって、子供のできることを過小評価している場合もあります。両親以外の保育者の目があり、子供に関わっていくことは決して悪いことではないと思います。

乳児期は一日中母親と一緒に過ごすべき?

子供たちを見ていると、小さいときからさまざまな個性、性格があり、またさまざまの能力があります。そして小さいときから社会性を持っています。この時期にずっと母子のカプセルで暮らすのはよいことでしょうか。母子のきずなは大切ですが、毎日一日中母子が向かい合って過ごすより、ある一定時間は母子以外の社会の中に入るほうが良いのではないでしょうか。御茶ノ水女子大学教授の無藤隆先生は著書の中で幼い子供たちが集団保育の場で、保育者や他事との相互作用から、さまざまな能力の発達をなしとげる可能性があるように思われると述べておられます。1)

たとえ一日中一緒にいなくても、一緒にいる時間にしっかり愛情を注げば母子の絆はしっかりできます。ある2歳の孫の面倒を見ているおばあさんが言っていました。「昼間こんなにかわいがってるのに夕方お母さんが帰ってきたら、お母さん、お母さんが始まる。子供の言っている言葉もお母さんが一番理解できる。それが子供にとってはいいことなのだろうけど。」。きっとこのお母さんは時間は短くても、愛情を注ぎ、子供をしっかり見つめ、「この子に対して、最終的には私が一番責任を持って育てているんだ」と自信を持って子供を育てているのでしょうね。

反対にいえば、いくら母親だからといって子供にとって自分が一番の存在とは限りません。時間の長さに関係なく、愛情をしっかり注ぎ、子供をしっかり理解し、子供に責任を持つ必要があります。保育園や誰かに預けるにしても、預けている間の様子はどうだったのか、子供が今日はどんな事をして過ごしていたのかをきちんと理解することが重要です。
また父子家庭など色々な事情で母親不在の家庭もあります。父親、あるいははは親代わりの人が愛情と責任を持って子供を育てれば、問題はありません。

保育園に行くと病気をすぐもらってしまう?

保育園あるいは幼稚園など集団生活をはじめた当初は病気によくかかります。これは当然のことです。たとえば風邪と一口に言ってもその原因となるウィルスは200種類以上あります。その多くのウィルスが、一度かかると免疫ができその後はそのウィルスに出会っても体の免疫がやっつけてくれるので、そのウィルスによる風邪にはかからなくなります。でも反対にいえば、かかったことのないウィルスに出会えば、風邪にかかってしまうのです。赤ちゃんは生後6月くらいまではお母さんの免疫を胎盤を通じてもらっていますが、それを過ぎると無防備です。社会生活を始めると色々なウィルスに出会い、風邪にかかり免疫ができていくのです。これは何歳で集団生活を始めても同じことです。保育園に行きはじめに頻繁に風邪をひいて「こんな小さいのに保育園に生かせるからだ」と回りの人に責められて落ち込んでいるお母さんによく出会います。私たちの医院ではそんなお母さんには先に述べたことを説明し「一年間、特に最初の3ヶ月を何とか乗り切ったら、後は病気をする回数がぐっと減りますよ」と励まします。そしてその通り子供たちは一年経つと病気の回数がぐっと減り、2~3年経つと年に数回しか病気をしなくなり、小学校に行くころには年に1~2回しか病気をしなくなります。「以前あれほど子供の病気で悩んでいたのがうそみたい」と多くのお母さんたちが言われます。

人間社会で生活をしていく以上風邪にかかるのはあたりまえのことです。集団生活を始めたことが悪いことではありません。病気になったときにどう対処するのかが大切なのです。いつもと違う症状に早く気づくこと、食欲、水分の取り方に注意すること、保育園を休むときの体勢の準備をしておくことなどです。

お母さんが働くこと

昔から母親は子育てに専念してきたのでしょうか?ちがいます。
日本の多くを占めていた農村部では数十年前まで、ほとんどの家庭が農家でした。
そこでは赤ちゃんのお母さんも重要な働き手で、赤ちゃんを背負って田んぼに出たり、籠に入れて畑に連れて行ったり、もう少し大きくなると、兄弟に面倒を見させたりして働いてきました。家の中でも、家事に今とは比べ物にならないような労力を要しました。私たちの保育園の周囲でも今から30数年前の昭和40年前後までは水道もありませんでした。洗濯は川にある洗濯場で、風呂の水汲みは井戸で行っていました。風呂を沸かすのももちろん薪です。たとえ家の中にお母さんがいても育児に割ける時間はほんのわずかです。家族が、食べて、生きていけるように親は必死で働いていたのです。

人間にとって働くことは自然のことであり、それは子供を持つお母さんにとっても同じことです。昔から、人間は労働をし、その上で子供を育ててきたのです。現在の社会では、現金収入がないと生活できません。昔のような家庭内や家庭の周囲での労働が主な家庭でなされていた状況とちがって、母親たちも通勤をして、様々な職種で働いています。これは時代の流れとして当然のことです。

小さいときから男女平等な学校生活をおくり、勉強にしろ運動にしろ、努力して上を目指すことが良いことだと教えられてきた女性にとって、母親になった途端、社会から身を引くのは理不尽なことです。法律上でも男女雇用機会均等法の施行、改正で職場での男女平等が義務付けられている現在、母親になった女性にも、子供を持つ以前と同じ様に働ける環境を作る必要があります。

母子関係の良い悪いは、家庭外で働くか働かないか、子供と接する時間が長いか短いかなどの単純な要因で決まるものではありません。母子が長時間いっしょにいればいるほど、母親が抱っこする時間が長ければよりよい母子関係ができるわけでもありません。もしそうだとしたら、一番最初の子供に比べて、2番目、3番目の子供の母子関係はおかしくなるはずです。

また子育ては3歳までのような短期間で終わるものではなく、子供が独り立ちするまで延々と続くものです。母子関係、あるいは親子関係は、長い時間をかけて育んでいくものです。3歳までにその後の一生が決定されるものではありません。

祖父母の存在

「保育園に小さいときから預けずに祖父母に面倒をみてもらえばいいじゃないか」と言われる方もいます。でも、現代では50代くらいのおじいさん、おばあさんはまだまだ現役で家庭外で働いている人が多いのです。子供が生まれて、お父さん、お母さん、おじいさん、おばあさんの誰が仕事をやめるかを相談された家族の話を聞きます。「お母さんの仕事を続けさせるために私が仕事をやめました」と言われるおばあさんがいます。孫の子守りに追われて、「孫に殺される。」と疲れきっているおばあさんがいます。
そして、現代ではおじいさん、おばあさんは必ず近くに住んでいるわけではありません。孫の病気のたびに、おばあさんが自分の家庭をほったらかしにして遠いところから孫の世話をしに来なくてはならず、一人残されたおじいさんがその間に盲腸から腹膜炎になってしまった家庭があります。

おじいさん、おばあさんだって自分たちの生活があるのです。それを犠牲にすることを強いることはできません。

外での仕事を持たないお母さんたち

一方、外での仕事を持たないお母さんたちの中には、社会から孤立し、悲鳴をあげている人たちがいます。恵泉女子学園大学教授の大日向雅美先生は著書のなかで、孤立した子育ての中で悲鳴をあげているお母さんたちをたくさん紹介しておられます。「トイレにも一人で入れない」「30分でいいから一人で町を歩きたい」「日本語で話し合える相手がほしい」。2)、3)、4)
私たちの医院の外来でも「一日子供の相手だけの生活で、社会においていかれる気がする」「何年も自分の時間がもてない」「子供に振り回される生活でいらいらする」などの悲鳴を聞きます。

現代のようにそれぞれの家庭のドアが閉じられ、家族の構成員の数が少なくなった状況で母子が向かい合っての育児は大変です。その上、家庭にいると、家事もするのが当然とみられます。そして周囲の人は、「時間がたくさんあっていいですね」とか「一日家にいると子供の相手をいっぱいしてあげられていいですね」とか言われるのです。そういう家庭のお母さんに「たまには休日にお父さんに子供の世話を任せて息抜きして御覧なさい」というと、「お父さんに任しても一時間しかもたない」「お父さんに任せても、子供をほったらかしにしてしまう」などの返事が返ってくることがあります。このお父さんたちは自分にはたった一日だけでも到底できないことを、「おまえは母親だからできるはずだ」と毎日押し付けているのです。以前に比べると、病院の受診やワクチン接種に自ら子供を連れてきたり、乳児健診に両親そろって来て、熱心に質問をするお父さんが増えましたが、まだまだ、「子育てはお母さん任せ」と決め込んでいるお父さんも多いです。

人間の母親は、母親であるとともに人間の社会生活を営む一員です。お母さんが生き生きと社会生活をおくっていくこと、自分の存在に自信を持ち精神的に安定した状態であることが子育ての上でも第一条件となるのではないでしょうか。

参考文献
1) 無藤隆他、 …